低用量ピル(経口避妊薬)は望まない妊娠を避けるためや、生理痛を緩和するため、あるいは体調を整える目的などで使用されることのある女性向けのお薬です。ピルを服用すると「なんだか少し毛深くなってきたような気が…」と感じるケースもあれば、ピルの服用に伴って「抜け毛が増えた」と感じるケースもあります。発毛と抜け毛、相反する反応とピルの作用について解説いたします。
月経と女性ホルモンの関係性
女性ホルモンには、「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と「プロゲステロン(黄体ホルモン)」があり、女性は月経リズムに沿って日々女性ホルモンの量を脳によってコントロールしています。厳密には「脳の視床下部」という箇所で血中ホルモン量が監視されており、必要に応じて視聴下部直下の「脳下垂体」へ「性腺刺激ホルモン」を出すよう指令を送ります。
血中に乗って体内を巡る性腺刺激ホルモンは、子宮に到達するとそれぞれ必要な量の「エストロゲン(卵胞ホルモン)」や「プロゲステロン(黄体ホルモン)」の分泌を促します。生理前には「プロゲステロン(黄体ホルモン)」の分泌量が増えて肌不調になりやすかったり、生理後は「エストロゲン(卵胞ホルモン)」の量が増えて好調になったりしますが、これらは結局のところ間接的な変化にすぎず、女性ホルモン量の変化は直接的には排卵を促したり卵巣や子宮内膜に変化をもたらして妊娠できるように整えるものです。
ピルは人為的に女性ホルモンの分泌量をコントロールするもの
避妊などの様々な目的で使用される低用量ピル(経口避妊薬)ですが、ピルはその日服用すべきものが定められており、人為的に外から女性ホルモンの量をコントロールできるものとなっています。「プロゲステロン(黄体ホルモン)」と「エストロゲン(卵胞ホルモン)」が化学合成されたものになっていますので、疑似的に「排卵後と同じ状態」が作り出せ、脳としても「もう今月は排卵しなくても良い」という判断に繋がっていくのです。この結果、かなりの精度で避妊効果を得ることができるようになっています。
ピルの服用と発毛や薄毛の関係性
ピルは第一に「避妊」や「生理不順の解消」という効果が期待できますが、間接的なメリットとしては、「生理痛の回避」、「肌荒れの改善」や「精神面での安定」などにも寄与します。また、一部には「多毛症を緩和する作用」も報告されています。
低用量ピルの主要な効果と副次的効果
- 主要な効果
妊娠の回避(避妊)、生理不順の解消 - 副次的な効果
生理痛の回避、肌荒れの改善、精神面での安定、多毛症の緩和
経口避妊薬が「多毛症の緩和(≒薄毛作用)」に繋がる理由
ピルは「化学合成された女性ホルモン」に他なりませんので、ピルを服用すると男性ホルモンに対して女性ホルモン優位な状態が高まります。これは、言葉を換えれば「男性ホルモンの産生を抑制すること」に繋がるわけです。体毛の多くは男性ホルモンである「エストロゲン」の影響を受けて強く育ちますので、相対的に男性ホルモン量の多い多毛症の女性にとっては、男性ホルモンの作用を回避しやすくなっていくわけです(必要以上の毛深さが緩和されていきます)。
ただし、このような「男性ホルモンの不活性化」は多毛症でない一般女性にとって必要な男性ホルモンの影響を抑制しすぎてしまう結果に繋がることもあります。女性は元々男性と比較して10分の1から20分の1程度の男性ホルモンがあると言われていますが、本質的に女性ホルモン優位な状態によって「毛深さ」を回避している側面があります。つまり、ピルの服用によって男性ホルモンの影響を受けにくくなってしまいすぎると、頭髪の方で予想外に抜け毛が増えてしまったり、薄毛作用がもたらされてしまうこともあるのです。
一方で、ピルを飲むと「毛深くなる」と噂される理由
低用量ピルの副作用として、男性ホルモンの影響が抑制されて「抜け毛」が増えたり「薄毛作用」が生じるケースがあるとご案内しましたが、一方で「毛深くなってしまう…」という噂を耳にしたことのある女性もいると思います。これは、「妊娠すると出産までの間に少なからず毛深くなってしまうこと」とも関連性があります。
女性は妊娠すると、出産するまでの間に「エストロゲン(卵胞ホルモン)」や「プロゲステロン(黄体ホルモン)」が増え続けます。月経周期の中でも女性ホルモンの分泌量は常に上下していますが、妊娠中はそのようなピーク量をはるかに超えて各女性ホルモンが分泌され続けます。妊娠中に毛深くなってしまう理由は主に次の二つです。
妊娠中のママが出産までの間に毛深くなってしまう事情
- 1. 増え続ける「エストロゲン(卵胞ホルモン)」がヘアサイクル上の「成長期」を長くしてしまう
→ 相対的に「抜け毛」が減ってくるため、一時的に多毛化しやすい - 2. 「エストロゲン(卵胞ホルモン)」にはメラニン色素の生成を促す作用もある
→ 体毛で薄い色味の産毛(うぶげ)も、メラニン色素量の増加により目立ちやすくなることがある
自分のお腹の中に赤ちゃんを授かると、ママは必然的にお腹をいたわり守ることを心掛けますが、この時にお腹周りの体毛が目立つようになってくると、「え!?毛深くなってきた…」と不安を覚えてしまいます。実際にどの程度毛深くなっているかはわかりませんが、出産までの間は女性ホルモンの分泌量が圧倒的に増えていきますので、産毛が目立ちやすくなったり、毛の抜け落ちる本数が減って毛深さが目に付きやすくなるのです。
このように、女性ホルモンの「エストロゲン(卵胞ホルモン)」については、分泌量が過剰になると今生えている毛を目でとらえやすくしてしまう作用もありますので、女性ホルモン量を化学合成したピルを服用していた場合にも少なからず同じような印象を与えてしまうケースがあります。
どちらかと言うと、「薄毛作用」が生じるケースの方が多い?
ピル服用の場合には妊娠中のような分量の女性ホルモンを服用することもないため、どちらかと言うと前述したような「男性ホルモンの不活性化」を受けるケースの方が多いと言えるでしょう。つまり、ピルの副作用としては「毛深さ影響」よりも「抜け毛が増えた」と感じることの方が多くなっています。
また、妊娠していたママが無事に出産し終えたときのように、ピルの服用を止めた途端に幾分長くなっていた「髪の成長期」がリセットされて抜け毛量が一時的に増えてしまう例も考えられます。このため、相対的には「やはりピルには薄毛作用がある…」という印象を抱かせやすいということになります。
いずれにしましても、「薄毛作用」を強く感じてしまうか、「多毛化」の方を実感してしまうかはピルを服用する女性一人ひとりによって異なります。薄毛作用を感じた場合にはピル服用の必要性を再検討するか、別の方法で抜け毛対策を立てるようにご調整ください。
薄毛予防で意識しておきたい生活習慣
女性の薄毛症状は、男性型脱毛症(AGA)とは異なり、生え際よりも「頭頂部」や「髪全体」が薄くなってくる傾向を帯びています。女性版の「女性男性型脱毛症(FAGA)」という言葉が使われたり、「びまん性脱毛症」という用語が使用されることもありますが、いずれにしても毛髪のボリューム低下が目立ち、特に分け目部分などで地肌が透けて見えやすいという特徴を持っています。
加齢によってホルモンバランスが変化したことで薄毛が生じる場合や、上述したようにピルの服用や中段によって抜け毛量が目立ってしまうこともあります。生活習慣によって薄毛症状が改善できるケースもありますので、次のような点を意識していただければと思います。
抜け毛予防で意識したい生活習慣
- シャンプーや洗髪のあり方を見直す
→ 過剰な洗髪の回数を減らす、しっかりと洗い流す、低刺激なシャンプーに替えてみる…etc. - ウォーキングやヨガなどの運動習慣を取り入れる
→ 血行を改善して頭皮環境を整える - 無理なダイエットや暴飲暴食を控え、バランスの良い食生活を心掛ける
→ 髪がしっかりと成長できるように栄養面でのケアをする - イライラやストレスを解消できるような趣味を見つける
→ ゆったりとリラックスする時間を取り入れ、イライラがもたらす抜け毛の助長を回避する - 睡眠習慣を見直す
→ しっかりと眠って成長ホルモンの分泌を促し、頭皮環境を整える - 喫煙習慣を改める(喫煙している場合)
→ 煙草は毛細血管の血流を妨げるため、禁煙したり本数調整で頭皮に良くない影響を抑制する
なお、上記のような生活習慣の改善はあくまでも「日常的なマイナス因子を遮断する対抗策」に過ぎません。具体的に「女性男性型脱毛症(FAGA)」や「びまん性脱毛症」といった症状が現れている場合には、お薬による対処が最も効果的になりますので、生活習慣の改善だけではなく、一度薄毛お悩みを専門としたクリニック(医療機関)を訪れてみることをおススメします。
当院は随時「無料カウンセリング」にて薄毛お悩みにお応えしていますので、ピル服用の有無にかかわらず、お気軽にご相談いただければと思います。